不対電子、一重項酸素、スピン量子数 |
●不対電子、一重項酸素、スピン量子数 電子の性質は四種類の量子数によって表されますが、ここではその中のスピン量子数を考えます。 普通の分子内では同じ軌道を回って対を作っている2個の電子は、互いに逆のスピンでありお互いを打ち消し合っているため、スピン量子数は“0”となっています。 スピンを打ち消す相手がいない電子は、不対電子とよばれます。分子内に不対電子が1個ある時は全スピン量子数は1/2となります。通常存在する酸素分子は同じスピン(1/2)の不対電子を二つ持っているため全スピン量子数は、“1”となります。 原子や分子の全電子のスピン量子数の合計が0の場合を一重項、1/2の場合を二重項、そして1の場合を三重項といいます。 酸素「O」の場合は、陽子は8個あるため、電子は通常8個です。電子の軌道K殻には2個の電子しか回ることができませんから、残り6個の電子は次のL殻というところを回ることになります。ここで問題なのが、このL殻は電子8個で安定するのです。「O」のままではどうしても電子が2個不足している状態です。 このため、となりあった酸素原子「O」とL殻の電子2個を協同で所有(二重結合)すると、これも見かけ上安定となるのですが、酸素の場合はちょっと特異な性質があり、電子のスピン量子数の関係で図解の様な結合状態となるのです。通常この状態を酸素分子といい「O2」と表します。 安定な状態(もっともエネルギーの低い状態=基底状態)では、各電子はできるだけ原子核に近い軌道を回っています。酸素の場合、基底状態のとき、同じスピンの不対電子を2個もつビラジカルと言われる状態でもっと安定します。このとき全電子のスピン量子数の合計が1になるため、「三重項状態」つまり「三重項酸素」が通常存在する状態となる、ちょっと特異な性質なのです。(図解を参照。) この状態に、紫外線などのエネルギーが加わると励起される電子が出てきて、より外側の電子軌道を回ることになります。酸素の場合は、不対電子2個のうち一つが励起されスピンの向きが反対になることで、もう一つの不対電子と対を作りスピンを互いにうち消し合い、エネルギーの高い励起された状態で全電子のスピン量子数が0、つまり「一重項状態」となる、ちょっと変わった状態になります。そして再び三重項酸素へとなる時に1.27μmという近赤外領域の波長で発光します。 この一重項酸素は、エネルギーが高く不安定な分子であることに違いなく、簡単に電子の受け渡しをしてしまいます。つまり反応しやすいという性質があるため、活性酸素の仲間と見ることができるのです。
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