ある医学研究者の展望

(この記事は、米国LPI社のヘルス・リサーチ・レビューを翻訳したものです。)

 栄養素と健康の関係を良く表していると思われますので参考にしてください。


ヘルス・リサーチ・レビュー1巻1号

(表紙から)

リード:

ドクター・マッキーは、化学の博士号をウィリアムズ・カレッジで取得したのち、医学博士号を、ケンタッキー大学で、外科と内科を専攻して取得しました。卒業後は、カリフォルニア大学ロサンジェルス・カウンティ・メディカル・センター、そしてカリフォルニア州サンホセのサンタ・クララ・ヴァレー・メディカル・センターとスタンフォード大学メディカル・センターで、さらなる内科医学の研鑽を積みました。ドクター・マッキーは、カリフォルニア州ラ・ホーヤのスクリップス・クリニック・アンド・リサーチ財団で、腫瘍学と血液学のフェローシップ(特別研究員)としても仕事をおこないました。現在は、顧問委員会から正式認知された血液学者/腫瘍学者です。また、スクリップス・リサーチ・インスティテュートでは、免疫学その他についても専門の研究をおこなっています。これら先進的な各種研究やフェローシップ体験を積む以前から、ドクター・マッキーは、コネティカット、コロラド、カリフォルニアの各州にて、栄養療法や心身医学に重点を置いたホリスティック医学を実践してきました。彼は、スクリップス・リサーチ・インスティテュートの免疫部の客員科学者であり、またスクリップス・クリニックの内科スタッフのメンバーでもあります。彼はまた個人的に血液学と腫瘍学の研究を続け、カリフォルニア州ヴィスタのシャープ・ホスピス・アンド・ホームケアの医学監督を勤めていたこともあります。現在、ドクター・マッキーは、共同研究者のマイケル・G・グッドマン医学博士と組んで、個人的な研究と患者さんの診察を平行して継続しています。ドクター・マッキーは、全米医療審査官委員会、全米内科委員会、ABIM腫瘍医学、ABIM血液学といった各団体の認定専門医です。医学研究、栄養科学、化学の各分野での経験豊富な彼は、世界でももっとも知識豊富な研究者・臨床医のひとりです。

本文:

 1970年代初頭に私が医学生だったころは、栄養ということは、カリキュラムでもあまり重視されていませんでした。栄養について教わった唯一のことといえば、誰かが妊娠中の場合、肝臓病の場合、糖尿病の場合、また肥満している場合に、どれだけのカロリーと蛋白質を摂ればいいのか、ということだけでした。近年、この分野で大きな進展がみられたにもかかわらず、医学部のカリキュラムでは、いまだに栄養面でのトレーニングはあまり重要視されていません。

 一方、科学研究の分野では、文字通り、爆発的な数の研究がおこなわれ、情報が集まっています。過去5年の発見のうちでも最もエキサイティングなもののひとつは、多くの栄養素が、実際に遺伝子情報の発現を調整している、ということです。この研究の興味深い一側面は、何千年もおこなわれてきた民間療法の中で知られていた多くの事柄の有効性を、分子遺伝子学や分子生物学が証明するかたちになった、ということです。実際、医学の父であるヒポクラテスが”汝の薬を汝の食べ物とし、汝の食べ物を汝の薬とせよ”と言ったのは、正しかったのです。

 直感的・経験主義的な観察結果にテクノロジーが追い付いてきたことの良い例のひとつは、癌に対するブドウの役割です。1929年、スイスの自然療法医、ジョアンナ・ブラントは、”ブドウによる治癒”という小冊子を書きました。それを私は、臨床を始めたばかりのころに読んだことがありました。彼女は、いろいろなタイプの癌患者が、赤ブドウだけを食べるという彼女独自の食養生に従うことによって、回復した、という、たいへん興味深い逸話の数々を紹介しています。その際、彼女は、患者たちに、数カ月の間、ブドウを丸ごと食べ、種もよく噛むよう指導し、それから序々に他の食べ物も与えていくようにしたのでした。

 過去10年のあいだに、ブドウにはいろいろな栄養成分が含まれていることがわかってきました。そのひとつが、ブドウの種に含まれているプロアントシアニディンズ( OPC群)という、非常に強力な抗酸化成分です。これら(OPC群)は、生物学的にも、薬理学的にも、化学予防学的にも、活性酸素や酸化ストレスに対抗する、実にさまざまな特性をそなえているのです。ネブラスカ大学メディカル・センター、クレイトン大学、ジョージタウン大学メディカル・センターの研究者たちは、OPCのエキスを、培養保存してある、ある種の一連の癌細胞に加えてみました。すると、OPCが、人間の乳癌、肺癌、胃癌の細胞の成長を、40%抑える、ということがわかりました。また別の研究では、OPCのエキスがまったく安全である、ということもわかりました。クレイトン大学の研究者たちは、これらの発見は”癌の予防と同様に癌の治療でも、さまざまな栄養素が重要な役割を果たしている可能性がある、ということ示している”と明言しました。これだけでなく、同じくブドウに含まれているリスベラトロースという成分も、強力な抗癌物質だということが明らかにされています。

 食べ物に含まれている天然の栄養素が癌の治療や予防に大きな力を持っている、ということを、ジョアンナ・ブラントが最初に観察を通して発見してから、ハイ・テクノロジーの細胞研究がそれを証明するまで、70年近い年月が費やされています。

 これは、現在毎週のように発見されている多くの事例の中の、ほんの一例に過ぎません。私個人の信じるところによれば、我々は現在、ますます汚染されてきている環境からのネガティブな影響と、ますます栄養的に劣化している表土や食品の供給との間に挟まれて、身動きがとれなくなってきています。商業的な食品加工行為は、今では、我々の経済システムの主要な一側面となっています。我々や我々の子どもたちは、ドライブスルーのウィンドウから手軽に供給される大量のファーストフードに頼って生活している始末です。我々の社会は、栄養供給システムを、味、見た目、便宜性にばかり着目して発達させてきました。そして質の良い栄養という面への着目度を、どんどん低くしてきてしまったのです。

 地元のスーパーマーケットへ行った時、まわりをよく見てください。多くの商品に、それとなく糖分や脂肪加工物が含まれているでしょう。それらは、心臓病や癌を発病させる主要なファクターとして知られているのですよ。住んでおられる街のメイン・ストリートを車で走ってみてください。何軒のファーストフード企業が目に入りましたか?両親が働いている家庭の子どもの場合、新鮮な野菜を口にする頻度はどれぐらいになるのか、考えてみたことはありますか?

 我々が住む地球上のすべての社会において人類の健康がカタストロフィー的な衝撃におそわれる前に、この商業ベースの栄養供給システムをまともなかたちに修復することが急務である、というのが、私自身の信念です。医者や研究者は、協力して科学的研究を行い、我々がこの課題を達成する助けとなるよう、情報を生産すべきです。それからまた、有害な環境汚染の危機も、とどまる気配がなく悪化の一途を辿っているようです。私が考えているのは、環境汚染の悪影響がおさまることをただ祈っているのでなく、それに先だって、免疫システムに作用する栄養素の効果を研究して栄養学的な安全ネットを早急に創り出すことも、可能な筈である、ということです。

 私がプロフェッショナルとしてのキャリアをスタートしてから今日までの間になされた進展のことを考えてみれば、まだまだ心救われる思いがします。腫瘍学と血液学を特に研究してきたメディカル・ドクターである私は、医学の主流派が良質の栄養を摂取することの利点に注目するようになってきたことを目にして、励まされてきました。25年にわたり、癌やその他の変性病と取り組んできた経験から、ホリスティック・ヘルスにおいては、自然な方法によって体本来の免疫力やその他の健康要素が高まっていくプロセスをサポートするのが、いちばん大切である、という信念を強く持つようになりました。もちろん、だからと言って”風呂の水といっしょに赤ん坊まで捨てたりしない”よう、慎重でなくてはなりません。つまり、医学における最新のテクノロジーといえども、よく確かめもしないでそれを安易に受け入れたいと思っているわけではない、ということです。あらゆる研究の最上の成果から得られた利点の数々を、上手に取り入れていきたい、というのが、我々がいちばん強い関心を持って考えていることです。医者も患者も、体の代謝プロセスを自然な方法によってサポートする、ということをいちばん大事に考えていかなければなりません。この中には、健康的な食物を食べること、サプリメントを摂ること、ストレスを減らすこと、適切な量の運動をすることなどが含まれます。

 これと平行する内容を持つ付加コラム”ファイトケミカルズ(植物由来化学物質群)による病気の予防”では、基本的なアドバイスとして、我々個々人は病気のリスクを減らすために基本的な努力をすべきである、ということを書きました。DNAを傷つける環境からの悪影響に対抗するため、多くの栄養素をふつうの食事から摂れる量以上にサプリメントで摂取していく、ということが、結局、病気を防いだり治癒するためのもっとも有効な戦略である、ということが、これからは実際に証明されてくることでしょう。




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