不対電子、一重項酸素、スピン量子数


 電子の性質は四種類の量子数によって表されますが、ここではその中のスピン量子数を考えます。
 スピン量数とは各々の電子がもつ回転の向きとでも表しますが、その向きと値は1/2と正反対の向きの-1/2という二つの状態のどちらかの状態しかとることができないのです。

 普通の分子内では同じ軌道を回って対を作っている2個の電子は、互いに逆のスピンでありお互いを打ち消し合っているため、スピン量子数は“0”となっています。

 スピンを打ち消す相手がいない電子は、不対電子とよばれます。分子内に不対電子が1個ある時は全スピン量子数は1/2となります。通常存在する酸素分子は同じスピン(1/2)の不対電子を二つ持っているため全スピン量子数は、“1”となります。

 原子や分子の全電子のスピン量子数の合計が0の場合を一重項1/2の場合を二重項、そして1の場合を三重項といいます。
 


 酸素「」の場合は、陽子は8個あるため、電子は通常8個です。電子の軌道K殻には2個の電子しか回ることができませんから、残り6個の電子は次のL殻というところを回ることになります。ここで問題なのが、このL殻は電子8個で安定するのです。「」のままではどうしても電子が2個不足している状態です。

 このため、となりあった酸素原子「」とL殻の電子2個を協同で所有(二重結合)すると、これも見かけ上安定となるのですが、酸素の場合はちょっと特異な性質があり、電子のスピン量子数の関係で図解の様な結合状態となるのです。通常この状態を酸素分子といい「2」と表します。

 安定な状態(もっともエネルギーの低い状態=基底状態)では、各電子はできるだけ原子核に近い軌道を回っています。酸素の場合、基底状態のとき、同じスピンの不対電子を2個もつビラジカルと言われる状態でもっと安定します。このとき全電子のスピン量子数の合計が1になるため、「三重項状態」つまり「三重項酸素」が通常存在する状態となる、ちょっと特異な性質なのです。(図解を参照。)

 この状態に、紫外線などのエネルギーが加わると励起される電子が出てきて、より外側の電子軌道を回ることになります。酸素の場合は、不対電子2個のうち一つが励起されスピンの向きが反対になることで、もう一つの不対電子と対を作りスピンを互いにうち消し合い、エネルギーの高い励起された状態で全電子のスピン量子数が0、つまり「一重項状態」となる、ちょっと変わった状態になります。そして再び三重項酸素へとなる時に1.27μmという近赤外領域の波長で発光します。

 この一重項酸素は、エネルギーが高く不安定な分子であることに違いなく、簡単に電子の受け渡しをしてしまいます。つまり反応しやすいという性質があるため、活性酸素の仲間と見ることができるのです。

参考資料:種々の電子数に対する可能な多重度
電子数 可能な多重度
1 2重        
2 1重 3重      
3 2重 4重      
4 1重 3重 5重    
5 2重 4重 6重    
6 1重 3重 5重 7重  
7 2重 4重 6重 8重  
8 1重 3重 5重 7重 9重



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